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「…何だこれは?」

ゴォゴォと風に乗って流れてくるのは熱気混じりの黒い煙。
長曾我部との対峙で時間をとられたかと思ったが、逆に予定より早く辿り着いた先で一行の目に飛び込んできたのは、闇夜を煌々と照らす赤い炎。

呆然と眼下を見下ろし呟いた慶次の隣で元親も言葉を失う。

天を焦がす赤い炎を生み出しているのは本能寺だった。

「こりゃいったいどういうことだ?」

そして同じく燃え盛る本能寺を見下ろし、政宗が厳しい表情を浮かべて言う。

その瞳には黒煙を上げる本能寺と、本能寺の周りで息絶えている織田・明智両兵の姿。
立ち位置から見て織田と明智がぶつかり合ったのは明白。

「明智の裏切り…でしょうか?」

政宗の側に立つ小十郎が眉をひそめて告げた。

その背後で伊達、長曾我部の兵達も動揺を抑えきれずざわざわとざわつく。

「明智が裏切ったぁ?やっこさんは織田の家臣だろう?」

驚いた様に小十郎に問い掛けた元親に、政宗が踵を返して応える。

「奴にはそんなもの関係ねぇ。…もっとも、家臣の裏切り何て珍しいもんじゃねぇだろ」

小十郎、と政宗は下りていた馬に跨がり、続けて言う。

「魔王のオッサンの生死を確かめに行く」

死んでいればそれまで。
生きていればその首をとるまで。
俺達の目的に変わりはねぇ。

「はっ」

その言葉に小十郎は短く返事を返し、すぐさま馬に騎乗して政宗の後に続く。

「ボケッとしてねぇで俺達も行くぞ風来坊」

「あ…、おぅ。って、この崖を?」

本能寺に向かって一直線に崖を駆け下りていく伊達軍の後を、長曾我部軍と慶次は必死で追った。







燃え盛る炎の中、熱気に煽られながら対峙する二つの影。

ジャキリと真っ直ぐ相手の眉間へと向けられたショットガン。鈍く妖しく光る銃身にゆらゆらと揺らめく炎が映り込む。

「このうつけ者めが。まんまと猿に踊らされおって」

威圧感のある深く低い声が、場違いなほど愉しげに顔を歪めた相手に投げ付けられる。

「あぁ…この時を待っていました。貴方と殺し合えるこの瞬間を」

容赦無く突き付けられた銃口と、肌を刺す、殺気と呼ぶには禍々し過ぎる気に、光秀はうっとりと熱に浮かされた様に言葉を紡ぐ。

「さぁ、邪魔者はいません。心行くまで踊りましょう、信長公」

クツクツと愉しげに肩を揺らし、光秀は両手に持った鎌を持ち上げた。

間も無く、眉間を狙って放たれた弾丸が熱を帯びた空を裂く。

ギィンと音を立てて弾丸を弾き、立て続けに撃ち込まれる銃弾を光秀は横へ足を運び避ける。
だらりと両腕を下げ、腰を落とした独特の姿勢で、光秀は間合いを一気に詰めた。

「きぇええっ――!」

死神を思わせる鎌をもたげ、信長へと迫る凶刃。
対する信長は右手に握った剣でその刃を悠々と弾き返し、左手に持ったショットガンで光秀の肩口を撃つ。

「くっ……!」

しかしその凶弾は、それより一瞬早く体を沈み込ませた光秀の、棘の様な形をした鎧の一部を砕くに留まった。

はらりと長い銀髪が後方へと流れる。
砕け散った鎧の一部を横目に見やり、光秀は身体を震わせた。

「クッ、ククククッ…」

そして、ゆるりと歪んだ光を灯す瞳で信長を見据え、再び間合いを詰める。

容赦無く撃ち込まれる銃弾全てを光秀は紙一重で避けながら、襲い来る剣を捌き、鎌を振るう。

「…良い、実に良い!これですよ!私が望んでいたものは!アーッハッハッハッ!」

ピリリと頬を掠めた刃も、そこから溢れ出した血も、気が昂った光秀にはもはや興奮材料にしかならない。

「血に狂うた下郎が!」

「ふふふふふっ、何とでも。あぁ…、愉しい。愉しいですねぇ信長公」

一発、二発、と光秀の左腕と右足を銃弾が掠める。それとは逆に、光秀の鎌は確実に信長の命を脅かしていく。

「うぬぅ…!」

「どうしました?貴方らしくもない。第六天魔王と呼ばれる貴方が…よもや動揺しているのですか?」

帰蝶を葬られ、大層可愛がっていた蘭丸ももう貴方の側には居ない。

ドンッ、と近距離から放たれた弾丸が光秀の左腕を撃ち抜く。

「おっと!痛いですねぇ。私としたことがお喋りがすぎましたか」

撃たれた勢いで左肩から後方へ吹き飛ばされ、左手から鎌が落ちる。足を踏ん張り何とか倒れる事を免れた光秀は痛みさえ心地好く感じるのか、軽口を叩いて己の左腕を見た。



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